雪国の風情ある温泉地と言えば山形県の「銀山温泉」を思い浮かべる人も多いでしょう。夕闇迫る山あいの温泉地に、ガス灯の明かりが灯るノスタルジックな風景。何を隠そう私もその風景が見たくて今回の旅行を計画したのです。
それでは早速、冬の銀山温泉に出発しましょう!
銀山温泉とは?歴史と佇まいを紹介

「銀山温泉」という印象的な名前は、銀山温泉から徒歩20~30分の距離にある延沢銀山で働く鉱夫が発見したことから来ています。延沢銀山は江戸時代には島根の石見銀山、兵庫の生野銀山延沢銀山と並んで三大銀山に数えられるほど栄え、近隣の銀山温泉も元禄2年に廃山となるまでは鉱山の関係者で賑わいをみせました。
その後は山あいの温泉地として発展してきた銀山温泉ですが、昭和58~59年放映のNHK連続テレビ小説『おしん』のロケ地となったことで一躍脚光を浴びます。物語の序盤に過去を振り返りながら主人公おしんが向かった先が思い出の銀山温泉であり、子供の頃のおしんが出稼ぎに出た母を訪ねた土地が銀山温泉でした。
そして現在はというと、まるで大正ロマンの世界に迷い込んだような温泉街の写真がSNSでも大人気。
そうですよね、雪の中に忽然と姿を現す温泉街は令和の時代の現実世界とは思えません。想像以上にタイムスリップしたみたいな風景だと、実際に足を運んで私も驚きました。
日本秘湯を守る会会員宿の「能登屋旅館」に泊まる

今回私が泊まったのは、銀山川を挟んで木造建築の旅館が立ち並ぶ一角の「能登屋旅館」。日本秘湯を守る会の会員宿で、客室数は本館別館あわせて15室です。
我が家は車で行きましたが、宿泊のお客さんは山形新幹線も停車する大石田駅から送迎もしてもらえます(要予約)。
温泉街には車で乗り入れることはできないので、手前にある専用駐車場に車を停めて宿まで歩きました。

温泉街に入るとすぐに足湯が見えてきます。足湯から湯気が上がっているのを見ると温泉地に来たなぁと嬉しくなります。しかし今は荷物もあるし、まずはお宿に急ぎましょう。それに寒いので、できれば足湯より全身温泉に浸かりたい!

そして朱塗りの橋の奥に木造3階建ての能登屋旅館を見つけて思わず溜息が。なんて絵になる建物なのでしょう。ここに泊まれると思うだけで心からワクワクしちゃいます。
ちなみにチェックインは14時からなので、少し早めに到着してできるだけ長い時間、銀山温泉で過ごすことをオススメしますよ。
能登屋旅館の客室と談話室
私が泊まったのは別館の「かたくり」。別館は本館より新しい建物です。
別館の客室は天井が高く洒落た造り

本館の長い年月が醸し出す風情のようなものは負けるかもしれませんが、廊下も客室もシンプルながらとても洒落ています。


お部屋も広く快適で、何より天井の高さに驚かされました。非常に贅沢な空間の使い方をしていると思います。

大正ロマンな談話室は必見!
私はお宿にチェックインすると、まず館内を探検してみることにしています。能登屋旅館で最初にやってきたのは「談話室」!スタッフにお部屋に案内してもらったときにちらっと素敵なガラスのドアが見えて気になっていたのです。

ドアを開けて入ってみるとなんとも可愛らしい小部屋が。大きなリボンを付けた大正時代のお嬢様が本を読んでいそうな雰囲気があります。

実はここは能登屋旅館を正面から見た時に、中央にひときわ高く塔のように造られた部分で、吹き抜けになった天井がその先端部分に当たる場所でした。つまり能登屋旅館のシンボルのようなお部屋で、建物を外から見た時に一番目立つ場所の内側がこの談話室だったのです。
能登屋旅館の温泉
談話室の次はお風呂へ行ってみました。
露天風呂の付いた大浴場

銀山温泉は温泉街の佇まいばかりが有名で、お湯は大したことがないんじゃないかと思っていませんか?実は温泉もいいんですよ。

男女別の大浴場にはうっすらと緑濁した温泉がたっぷりと。泉質はナトリウム―塩化物・硫酸塩温泉で、湯口近くのお湯からは金属の香りがします。非加熱非加水の源泉かけ流し。しっかりほかほかと温まりますよ。

露天風呂も付いていたので降り積もる雪を見ながらのんびりと入れました。冬の露天風呂は最高です。一度入ると上がりたくなくなります。
能登屋旅館の貸切風呂はなんと洞窟風呂!?

ところで能登屋旅館には貸切風呂もあるのです。特にオプション料金や予約は不要。空いていれば自分で札を「入浴中」にして、中から鍵をかけて使えます。

ドアを開けると階段があり下りると脱衣所、さらに階段があり、お風呂はその下です。どこまで下りるんでしょう。階段は狭いけど、なんだか隠れ家のようで面白い洞窟風呂です。

この貸切の洞窟風呂は能登屋旅館でも歴史の古いお風呂です。源泉は先ほどの男女別の大浴場と同じですが、空気にあまり触れない状態で注がれるせいか、より温泉のにおいや感触が強く感じられます。
また能登屋旅館にはもう一つ、別館3階から長い階段を上った先に展望露天風呂があるのですが、残念ながら冬季はお休みしています。この展望露天風呂からは白銀の滝を見ることもできるというお話なので、季節を変えてまた泊まりに来てみたいと思います。
灯りのともる雪の銀山温泉

冬の日は短いです。夕食前にはもう暗くなってきました。それでは黄昏時の温泉街を歩いてみましょう。
そう、これですよこれ!この景色が見たかったんです。雪、銀山川、橋、そして木造建築の並ぶ温泉街!銀山温泉に泊まったら絶対に見たい景色がここにあります。
しかしそう思ったのは私たちだけではありません。夕暮れ時になると昼間以上に大勢の人が宿を出て散策しています。みんなこの景色を見たいんですよね。わかります。

なお、薄着で玄関まで来てしまった場合は能登屋旅館は赤いコートを貸してくれます。夫が借りましたが、めちゃめちゃ温かかったそうですよ。

能登屋旅館の夕食・朝食

能登屋旅館の夕食は品数も多く味付けも品よし。先付けのあさつきの甘味、前菜の白子豆腐のねっとりとした舌触り、鯉甘煮はボリューミーでした。
メインの小鍋には地元産の尾花沢牛と米沢豚のしゃぶしゃぶ。この尾花沢牛がしゃぶしゃぶ用にしては厚みがあるのに食べるととても柔らかい。味もぎゅっと濃厚で肉の甘味がたっぷり味わえます。

変わったところでは酢の物に滝川豆腐。もろいところてんのようでお箸で持ち上げるとすぐに切れてしまいます。焼き物は岩名田楽で甘味噌が乗っています。

ご飯のお米はもちろん山形産のつや姫。出汁の効いた鴨汁と一緒に頂きました。もうお腹がいっぱいです。デザートまで入らないかも。

朝ごはんは小鉢がたくさんで彩りも良いしどれから箸を付けようか迷ってしまいます。湯豆腐もあって寒かった身体も中から温まりました。

朝食後は1階のラウンジでコーヒーがいただけます。このちょっとした時間が旅にゆとりを与えてくれるんですね。
※食事のメニューは季節やプランによって変更になります。
DATA 能登屋旅館 所在地:山形県尾花沢市銀山新畑446 電話番号:0237-28-2327 アクセス:山形北ICから尾花沢経由1時間20分、または大石田駅から送迎バス40分(要予約) 公式サイト:能登屋旅館
銀山温泉そぞろ歩きのおすすめスポット
ここからは、銀山温泉に行ったら寄りたいスポットを2ヶ所ご紹介します。
八木橋商店で「もっきり一杯」

まずは能登屋旅館の2軒先に建つ酒屋「八木橋商店」。お酒だけでなく土産物や雑貨も販売しています。
おすすめは「もっきり一杯」。もっきりとは盛り切りのことで、升の中にグラスを置いて溢れるまで注いでくれます。一部を除き店内に並ぶ日本酒・リキュールを一杯500円で飲めるチャンス。

どのお酒をお願いするか悩んで人気のお酒を伺うと、「榮光冨士 (えいこうふじ)ASTERISK(アスタリスク) 〜小さな星の物語〜」を勧めてくださいました。スッキリと飲みやすく、どこか優しい口当たり。これはいくらでも飲めちゃうやつ!しかもボトルがまたお洒落。

銀山温泉のロケーションを眺めながらのもっきりは最高。飲むのは是非屋外で!雪見酒としゃれこみましょう。ちょっとした椅子席もあります。
DATA 八木橋商店 所在地:山形県尾花沢市銀山新畑448 電話番号:0237-28-2035 営業時間:9:00~18:00 定休日:不定休 公式サイト:八木橋商店
隅健吾設計の共同浴場「しろがね湯」

温泉街の川下の外れに建つユニークな形の共同浴場が「しろがね湯」。道路と斜面に挟まれたほっそいスペースを有効活用するかのように建っています。

館内は1階が男湯で、2階が女湯。女湯は建物の形状を利用して、ほぼ三角形の浴槽が特徴。源泉は能登屋旅館と同じですが、共同浴場はより源泉湧出地に近く、タンクに溜めないまま湯舟に注いでいるので温泉の鮮度感が感じられるかもしれません。
能登屋旅館宿泊者はしろがね湯の入浴券を頂けるので、入りたい方はフロントにその旨お伝えくださいね。
DATA 銀山温泉 共同浴場 しろがね湯 所在地:山形県尾花沢市銀山新畑433 営業時間:8:30~15:00 定休日:水曜日
冬の銀山温泉を訪ねてみて
写真で見て憧れていた雪国の温泉街、大正ロマンの世界は本物でした。
雪の中の静けさ、ほうっと溜息をつきたくなる温泉の温かさ、川沿いに立ち並ぶ木造建築の荘厳さ、これらは写真や映像を見るだけでなく実際に訪れて体験して頂きたいものばかり。どれか一つでも気になったら、ぜひ銀山温泉に足を運んでみてください。