旨い!安い!早い!の三拍子がそろった魅力満載の食があふれる南イタリア最大の街「ナポリ」。例えるならば、日本の大阪のようにクセの強い街です。陽気な太陽がサンサンと照らす喧騒に包まれた古都は昔からたくさんの旅人を惹きつけてきました。
コテコテの人情味あふれる人間模様が繰り広げられるこの土地では、郷土菓子も個性豊かな粒ぞろい。マリトォッツォの次に日本で流行るお菓子があるかも!?
今回は、南イタリア在住の筆者が日本ではまだ知られていないディープな「ナポリスイーツの世界」へ皆様をご招待します。
南イタリア観光の中心地「ナポリ」
ナポリはイタリア半島の南西に位置し、ローマ、ミラノに続くイタリア第三の都市です。その歴史は古く、古代ギリシャの植民地として築かれた紀元前5世紀まで遡ります。街を象徴するシンボルは「世界三大美港」のひとつであるナポリ湾とヴェスヴィオ火山。尚、1995年にナポリ歴史地区が世界遺産に登録されました。
この地を初めて訪れると、大きなジェスチャーと威勢のよい声で会話する人や、車と人とバイクが道で行き乱れるハラハラな光景をあちこちで見かけ拍子抜けする人が多いかも(笑)。でも、これもナポリの魅力のひとつ。刺激的なこの街は中毒性が高く、一度訪れると何度も通う人が多いのです。
言うまでもなく、イタリア旅行で南部を訪れるなら絶対に外せないメイン都市。
古代から受け継がれた歴史や文化の豊かさが垣間見える建造物や美術館がわんさか。もちろん旅人を魅了する「ご当地グルメ」もあります!後ほど、個性派ぞろいのナポリ銘菓をご紹介しますのでお楽しみに。
イタリア人と伝統グルメ
南北に長いイタリアには20州ありますが、イタリア人は自分が生まれた土地の伝統グルメ(料理やお菓子)を限りなく愛する国民です。これは、小国に分裂していたイタリアが「ひとつの国」として統一されてから160年しか経っていないため、いまだに習慣や文化が地方単位で完結しているのが理由かもしれません。
料理はもちろんのこと、スイーツも土地のものを一生食べ続けるのがいつもの日常。ティラミスなど全国で人気の一部の種類を除き、よその土地のスイーツを食べるのは旅行に出かける時ぐらい。でも、不思議なことにそれを不満に思うことはありません。なぜなら、自分の街の食べ物が一番美味しいという自信があるから。
しかも、マンマ(お母さん)が作る料理やスイーツは「お金を出しても買えない特別な味」と崇めるイタリア人が多いこと。マザコンが多いと言われるイタリアでは、これも不思議なことではなく家族愛が成す当たり前の感覚なのかもしれません。
お菓子を食べる習慣
一般的にイタリア人はクッキーや菓子パンなどの甘いものを朝食に食べます。それ以外に決まってスイーツを食べるのが「日曜日の家族ランチ」。特に南イタリアでは毎週日曜日に家族や親戚が集まり、盛大な食事会を開く習慣が今も根付いています。
食後のデザートはマンマ特製のスイーツ!さらには、招待された側がおもたせとして持参したお菓子も一緒に並びます。そして、郷土菓子はキリスト教の宗教行事と関わりが深く、決まった行事の日に必ず食べるお菓子が存在します。
基本のナポリ菓子
それでは、ここからは「ナポリならではのお菓子ってどんなもの?」という好奇心に応え、ナポリを代表する郷土菓子を5つご紹介します。
パリパリ食感の焼き菓子「スフォリアテッラ」
最初は、パリパリ食感がたまらない!パイ菓子「スフォリアテッラ」です。中にはオレンジピール入りのリコッタクリームがぎっしり。ナポリを訪れたらこれを食べずして帰れない、まさに郷土菓子の代表格です。
もともとは17世紀にアマルフィ海岸の修道院で偶然発明されたお菓子で、そのレシピはずっと門外不出の秘密でしたが、ナポリの料理店の主人がレシピを手に入れ改良して販売。瞬く間に人気商品となり、今でもナポリっ子の心をつかみ魅了しています。
尚、現在のスフォリアテッラには貝殻の形をしたパイ生地の「リッチャ」、丸い形のクッキー生地で作られた「フロッラ」の二種類があり、食感の違いで異なる美味しさを生み出します。最近では惣菜パイの変わり種スフォリアテッラも登場し、スイーツとしてだけでなく進化し続けるこのお菓子から目が離せません。
ラム酒がたっぷり!大人向けスイーツ「ババ」
次は、キノコの形をしたスポンジケーキにラム酒入りのシロップをたっぷり染み込ませた「ババ」。日本人ならそのネーミングに一瞬笑ってしまうかもしれませんね(笑)。でも、正真正銘ナポリを代表する伝統菓子で、前途のスフォリアテッラと合わせて「ナポリの二大菓子」と称されます。
ババの発祥はイタリアではなく意外にもポーランド。歯を失ったポーランド王がスポンジ菓子を食べやすくするため、トカイワインを入れたシロップでやわらかくしたのがはじまりです。
現在のラム酒入りのレシピは、1835年にポーランドのお姫様がフランスに嫁入りして改良したもの。その後、パリを訪れたナポリ貴族の料理人がこれをナポリに持ち帰り現在に至ります。クリームやチョコレートでカラフルに盛り付けられたババは、美味しいだけでなくインスタ映えもバッチリ。
復活祭の季節菓子「パスティエラ」
3つ目は、復活祭(イースター)のお菓子「パスティエラ」です。牛乳で煮込んだ小麦にリコッタチーズやオレンジピール、シナモンを合わせ、クッキー生地に流し込み焼いた珍しいケーキ。食べた瞬間、口いっぱいに広がるオレンジフラワーウォーターの香りが特徴です。
このお菓子にはちょっと変わった伝説があります。ナポリ湾の人魚が美しい歌声を人々に聴かせ、そのお礼に街の人が7つの恵みを献上しました。それが、パスティエラの材料となる小麦粉、卵、麦、リコッタ、オレンジの花、シナモン、砂糖。人魚は神様に7つの品を捧げこの偉大なお菓子ができたと言われています。
本来は復活祭の季節のみ見かけるお菓子でしたが、現在は一年を通して食べられます。作ってから3日後が美味しいと言われ、今でも復活祭前の木曜日に家庭でパスティエラを仕込むナポリマンマが大勢います。
父の日のシュークリーム「ゼッポレ」
4つ目は、イタリアの父の日(3月19日)に食べるシュークリーム「ゼッポレ」。この日はイエス・キリストの義父である聖ジュゼッペの日であることから「聖ジュゼッペのゼッポレ」とも呼ばれます。こちらのお菓子もうれしいことに現在は年間を通して味わえます。
作り方はとてもシンプルで小麦粉、砂糖、卵、バターで作った生地を揚げて、カスタードクリームとシロップ漬けのアマレーナ(黒さくらんぼ)で飾りつければ完成。生地を揚げずにオーブンで焼いたヘルシータイプもあります。味は日本のシュークリームによく似ているので違和感はありません。
このゼッポレはナポリで発明され、その後、イタリア南部から中部へと広がりました。よって、現在はナポリ以外でも「父の日のお菓子」として定着してます。
クリスマス菓子「ストゥルッフォリ」
最後は、ナポリのクリスマスに欠かせない「ストゥルッフォリ」。ドーナツ生地をビー玉サイズに丸めて揚げ、はちみつやカラフルなトッピングシュガー、シトロンの砂糖漬けなどで飾りつけた揚げ菓子です。
起源は古代ギリシャにあるとされ、古代ローマ人も食べていたお菓子。シナモンのスパイシーな香りと柑橘系のフルーティーさが口の中で入り混じり、なんだかエキゾチックな味わい。ですが、後味はかりんとうに似ているので日本人にも食べやすいはず。
今でもクリスマスの時期にしかお目見えしない季節菓子で、ゼッポレと同じくイタリア南部から中部へ広がったため似たようなお菓子が名前を変えて各地に存在します。
ナポリ菓子の名店厳選5選を食べ歩こう!
さぁ、お待ちかねの旨いナポリ菓子が食べられるお店を5つご紹介します。どのお店も街の中心部にあるので観光の合間の休憩にもってこい!ナポリ中央駅から観光名所「ガッレリア・ウンベルトⅠ世」までのルートに全店含まれるので順番に5軒をハシゴすることも可能ですよ。
駅からアクセス抜群の名店「アッタナシオ」
最初は、旅の玄関口であるナポリ中央駅からすぐの「アッタナシオ」。お店の看板商品はずばり!スフォリアテッラ。焼きたてを求めてお店の前には連日長蛇の列ができます。行列を避けるには午前中早めに訪れるのがオススメ。
看板と包み紙には「ナポリには3つ美しいものがある。1つは海、もう1つはヴェスヴィオ、そして、スフォリアテッラ」という粋な宣伝文句が。どこか懐かしさを感じさせるイラストも心をくすぐります。また、店舗の隣りには工房があり、職人が休みなくスフォリアテッラを焼く姿が印象的です。
DATA アンティーコ・フォルノ・デッレ・スフォリアテッレ・カルデ・アッタナシオ (Antico Forno delle sfogliatelle calde Attanasio) 所在地:Vico Ferrovia, 1-2-3-4, 80142 Napoli NA, イタリア URL:公式ホームページ(イタリア語) 営業時間:6時30分~19時30分 定休日:火曜 アクセス:ナポリ中央駅から徒歩4分
ババが人気の老舗「スカトゥルキオ」
観光名所が点在する歴史地区で名を馳せる「スカトゥルキオ」は創業100年以上の老舗。そして、ババの超人気店として有名です。毎日何千個と飛ぶように売れるババは、思ったよりアルコール控えめなので案外パクパクいけちゃいます。
待ち時間には入口に飾られた圧巻の「ババでできたヴェスヴィオ火山」(レプリカ)を鑑賞して楽しんでください。こちらは1994年にG7がナポリで開催された時に献上されたもの。尚、歴史地区にある本店以外に市内に5店舗を構えるため思い立った時に近くの店舗へGO!
DATA スカトゥルキオ(Scaturchio) 所在地:P.za S. Domenico Maggiore, 19, 80134 Napoli NA, イタリア URL:スカトゥルキオ公式ページ(イタリア語) 営業時間:8時~21時 定休日:なし アクセス:サン・セヴェーロ礼拝堂から徒歩3分
上質なパスティエラのお店「チェラルディ・カフェ」
ショッピングに最適なナポリのメインストリート「トレド通り」に面して建つ「チェラルディ・カフェ」は午後のティータイムをゆっくり過ごしたい人にオススメ。古きよき時代のナポリのエレガントな雰囲気を体感できる一軒です。
このカフェで絶対に食べてほしいのが上品な甘さのパスティエラ。一般的にイタリア菓子は日本のスイーツよりかなり甘いのですが、こちらはしつこさがなく気付かないうちにパクリと完食。なによりも素材本来の味を堪能できます。
DATA チェラルディ・カフェ(Ceraldi Caffè) 所在地Piazza Carità, 14, 80134 Napoli NA, イタリア URL:チェラルディ・カフェ公式ページ(イタリア語) 営業時間:6時30分~20時30分(日曜は14時まで) 定休日:なし アクセス:地下鉄トレド駅から徒歩3分
元祖スフォリアテッラのお店「ピンタウロ」
前途のスフォリアテッラの紹介で、修道女からレシピを手に入れた人物こそが「ピンタウロ」の店主。1818年に料理店から菓子店に商売を変え、スフォリアテッラで一世一代の大勝負に挑んだ彼のお店は現在も人気店のひとつに君臨します。
この「元祖スフォリアテッラ」は他店に比べて値段がちょっと高め(1つ2.5ユーロ)ですが、それでも日々行列が絶えず並んでも食べたいと意気込むリピーターが多いのが特徴。お店は人通りが多いトレド通りの一等地にあるので観光やショッピングの合間に来店を。
DATA ピンタウロ(Pintauro) 所在地:Via Toledo, 275, 80132 Napoli NA, イタリア URL:なし 営業時間:9時~20時(日曜日は 9時20分~14時) 定休日:なし アクセス:ガッレリア・ウンベルトⅠ世から徒歩2分
ガッレリア内No.1の人気店「マリー」
ナポリ市内観光で外せない「ガッレリア・ウンベルトⅠ世」(アーケード)の一角にあるのが、ナポリっ子も観光客も大好きな「マリー」です。いつでもできたてのスフォリアテッラが食べられるお店として知られ、サクサク食感と口どけまろやかなクリームが人気の秘訣。
このお店ではババも同じく人気商品でミニサイズから巨大サイズまであり、その時の気分で選べるのがうれしいポイント。とても小さな売店ですが日本のガイドブックにも度々紹介される有名店です。ガッレリア観光の後は甘い郷土菓子でひと息いれてはいかが?
DATA ラ・スフォリアテッラ・マリー(La Sfogliatella Mary) 所在地:Via Toledo, 66, 80134 Napoli NA, イタリア URL:ラ・スフォリアテッラ・マリー公式FBページ 営業時間:8時~20時30分 定休日:なし アクセス:ガッレリア・ウンベルトⅠ世内
ナポリ菓子が食べられる日本のお店
今すぐに飛行機に飛び乗って陽気な南イタリア・ナポリへ!と焦る気持ち、よーくわかります。ですが、再びコロナが猛威を振るうヨーロッパへの旅行は難しいですよね。そこで、日本に居ながらにしてナポリ菓子が味わえるとっておきのお店をご紹介します。
ピノサリーチェ(東京・渋谷)
2004年から渋谷の住宅街で南イタリア料理を提供する「ピノサリーチェ」では、女性パティシエが情熱を注ぐ本格的なナポリ菓子がいただけます。
種類は王道のババ、パスティエラに加え、アマルフィ海岸の名物レモンケーキ「デリツィア・リモーネ」やカプリ島発祥のアーモンド入りチョコレートケーキ「トルタ・カプレーゼ」まで。常に用意されているメニューではないので予約時に確認を。
DATA ピノサリーチェ 所在地:〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町15-10 ロイヤルパレス渋谷102 電話番号:03-3496-3555 URL:ピノサリーチェ公式ページ 営業時間:17時~23時 定休日:日曜&月曜 アクセス:JR「渋谷駅」から徒歩14分(現在、再開発工事の迂回ルートの為)
個性豊かなナポリ菓子を味わい尽くそう!
今回は、人も食もディープな街「ナポリ」の粒ぞろいの郷土菓子をご紹介しました。歴史上、南イタリアの中心であったナポリには王様や貴族に仕えるために腕利きの菓子職人が集められ、外国から流れ込んだ新しい文化と彼らの技術が相まって美味しい歴史を紡いできました。
郷土菓子を含め現地の食文化を体験することはその土地をさらに知ることに繋がります。コロナが収束したら、食いだおれ天国ナポリでほっぺたが落ちるほど旨い絶品スイーツを満喫してください。