島根県で人気の窯元巡り!出雲・松江で陶芸旅

東郷 カオル

トラベルライター

古くからものづくりが盛んで、美しい伝統工芸の技術が数多く残る島根県。そんな数々の工芸の中でも、近年新たなファンを獲得しているのが陶器、“うつわ”です。民藝運動の影響を強く受けたこの地には、生活に寄り添う陶器を作る窯がいくつもあります。伝統や歴史を受け継ぎつつも、現代のライフスタイルに合うようなおしゃれなデザインが豊富。今回は、島根の人気窯元3軒をご紹介します。

民藝運動って何?

趣味でうつわを買い求めたり、うつわ巡りの旅をしていると、どこかのタイミングで必ず「民藝運動」という言葉に出会うでしょう。島根県はこの民藝運動が盛んだった土地です。民藝運動とはどのようなものか、簡単に説明しておきましょう。

民藝運動というのは、“民藝運動の父”と呼ばれる柳宗悦と、河井寬次郎、浜田庄司らによって提唱された生活文化運動です。彼らは観賞用の工芸品ではなく、各地の風土から生まれた生活に根ざした日常の生活道具に美しさを見出し、その後の日本人の美意識に大きな影響を与えました。

また、日本で暮らした期間もあり、彼らと交流のあったイギリス人陶芸家のバーナード・リーチも民藝運動に深く関わったひとり。バーナード・リーチは、近年日本でも美術展が度々開催される人気陶芸家ルーシー・リーと交流があったことでもよく知られる人物です。彼は日本にスリップウェア(スポイトなどを用いて化粧土で装飾する)の技法を持ち込み、今でも山陰地方を中心に日本各地でスリップウェアが作られています。

難しい話はここまでにして、ここからは島根県でつくられている民藝陶器をご紹介。ぜひ実際に足を運んでお気に入りのうつわを見つけてください。

湯町窯(松江市)

美肌の湯として知られる玉造温泉の近くにある湯町窯は、大正11年に開窯。玉造温泉駅から徒歩1分という便利な場所にあり、温泉・観光がてら気軽に立ち寄れるお店。店内には様々なサイズのお皿、コーヒーカップ、湯呑、ピッチャーなどが所狭しと並んでいます。

湯町窯は江戸時代からこの辺りで伝わる布志名焼の流れを汲み、地元の土と黄釉(きぐすり)や海鼠釉(なまこゆう)を使用して作陶。作品はどれもぽってりとした厚みがあり、温かみを感じさせます。カップやピッチャーなどを手にしてみると、その持ちやすさに気が付くかもしれません。使い手の手に馴染むのも特徴のひとつです。

この地で使われる黄釉は、英国のガレナ釉に似ていることもあり、バーナード・リーチは湯町窯を7度も訪れて、スリップウェアを指導しています。その際に、カップからハンドルが生えているようにすると美しく力強いデザインになること、口を付けた際に唇の触りが良いものを作るようにと、指導を受けたそうです。

湯町窯には柳宗悦、河井寬次郎、浜田庄司、棟方志功、バーナード・リーチらが訪れ、交流を持ちました。その時の写真や作品なども保管され、民藝運動の歴史を肌で感じることができます。

湯町窯3代目の福間琇士さん。温かみのあるうつわだけではなく、3代目の飾らない人柄も愛される窯元です

エッグベーカーが人気の窯元

こちらはコロンとしたかわいらしフォルムが人気のエッグベーカー。電子レンジでの使用はもちろん、直に火にかけることもでき、数分で半熟の目玉焼きが作れます。

なかなか陶器が売れない時代に、バーナード・リーチのアドバイスで生まれたのがこのエッグベーカーだったそうで、今では湯町窯の代名詞とも言える商品です。

DATA
湯町窯
所在地:島根県松江市玉湯町湯町965
公式サイト:湯町窯(しまね観光ナビ)

袖師窯(松江市)

次に紹介する袖師窯は、松江中心部からもアクセスがよい宍道湖の畔にある窯元。松江観光に便利な観光ループバス「ぐるっと松江レイクライン」を利用し、県立美術館で降りると徒歩3分ほどでアクセスできます。旅の目的がうつわ探しの人以外も、ぜひ観光・お買い物の予定に組み込んでほしい一軒。職人が作陶している様子や作品を見ると、陶器がぐっと生活の近くに感じられるようになる窯元です。

開窯は明治10年。現在は5代目の尾野友彦氏が継窯し、日用品を中心に作陶しています。3代目の尾野敏郎氏の時に柳宗悦や河井寬次郎、バーナード・リーチの指導を受け、民芸陶器の窯として知られています。

民藝陶器を身近に感じる窯元

2階には展示室があり、自由に見学・お買い物ができます。和室だけではなく洋室にも映える明るい色合いのうつわも数多く並んでいて、実際に食卓で使われているのがイメージしやすいのではないでしょうか。伝統を継承しつつ新しい感覚も取り入れ、現代のライフスタイルに合わせた作品が並びます。

袖師窯のうつわは、“暮らしの中にすっと馴染む”という印象。自宅をイメージしながらのお買い物も楽しいでしょう。“用の美”という言葉を生んだ民藝運動の精神を伝える窯元です。

DATA
袖師窯
所在地:島根県松江市袖師町3-21
公式サイト:袖師窯(しまね観光ナビ)

出西窯(出雲市)

出西窯は、“出西ブルー”という言葉で近年人気の窯元です。この出西窯も柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郞、バーナード・リーチらに指導を受けた窯元のひとつ。

出西窯には6連房の登り窯、原料場も敷地内にあります。窯焚きはもちろんのこと、原土から粘土を精製するのも自分たちの手で行い、島根県の土を複数ブレンドした粘土と自家調合で作った釉薬を用い、作陶しています。

展示販売場「くらしの陶・無自性館」は、明治初期の米蔵だった建物を譲り受けて移築・増改築したもの。周囲の田園風景と馴染み、木の温もりが感じられる建物です。吹き抜けの2階建ての館内には、連れて帰りたくなるようなうつわが並び、時間が経つのを忘れてしまいそうになります。

出西ブルーという言葉を生んだ窯元

これがウワサの“出西ブルー”。実は取材日は時折晴れ間が見られるものの小雨が降るようなお天気だったのですが、撮影した写真を見るとまるでその日が晴天だったと錯覚するような、澄んだ空のようなブルーです。このブルーは、登り窯よりも灯油窯のほうが美しく出るとのこと。

こちらは最近大人気のキャットボウル。猫好きにはたまらない商品です。若い職人も多く、伝統に現代のセンスを織り交ぜたうつわが魅力的。気が付けば大人買いしてしまっていたという人も少なくない人気の窯元です。

DATA
出西窯
所在地:島根県出雲市斐川町出西3368
公式サイト:出西窯

手しごとの温かみを知る島根の旅

最近はようやく見直されてきていますが、都会で暮らしていると大量生産された食器が安価で手に入り、割れたら捨てるという時代が長く続きました。ですが、ふとしたきっかけでお気に入りのうつわに出会うと、どんどんうつわの魅力に取りつかれて“沼”にはまってしまう人も。割れたり欠けたりしても、金継して大事に使いたい、そんな温かみのある手しごとのうつわに出会える旅を島根で楽しんでください。

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東郷 カオル

トラベルライター