鹿児島県の穴場温泉・紫尾温泉「旅籠しび荘」宿泊記

ライター 権丈俊宏

権丈俊宏

一級建築士

紫尾温泉(鹿児島県さつま町)は、県北西部の山中にひっそりとある温泉地。一般的にはあまり有名でありませんが、良質のアルカリ性単純硫黄泉が湧出。遠隔地ながらも全国から温泉ファンが訪れ、穴場的存在の温泉地と言えるでしょう。

「旅籠しび荘」は、紫尾温泉を代表する温泉宿の一つ。その最大の魅力は、宝石のエメラルドグリーンの様に蒼く輝く名湯を、源泉かけ流しで楽しめる点です。今回は、その知る人ぞ知る名湯をはじめ、宿泊施設としての全貌を徹底紹介します!

紫尾温泉とは

紫尾温泉 神の湯(紫尾区営大衆浴場)

紫尾温泉(読み方:しびおんせん)は約750年の歴史を持つといわれ、知る人ぞ知る鹿児島県屈指の温泉地の一つ。紫尾神社の拝殿の下から源泉が自然湧出することから、“神の湯”とも呼ばれています。

温泉街中心部にある公衆浴場(紫尾区営大衆浴場)は、その“神の湯”が使われています。泉質は「アルカリ性単純硫黄温泉」。pH(ペーハー)値は9.4と高いアルカリ性。トロトロした柔らかな肌触り、そしてゆで卵の様な優しい硫黄の香りが魅力の美肌湯です。

旅籠しび荘とは

神の湯を使用した温泉 写真提供:旅籠しび荘

「旅籠しび荘」(以下、しび荘と略)は、紫尾温泉にある老舗宿の一つです。見逃せないのは、敷地内に自家源泉を持っている点。紫尾神社から引かれた神の湯(共同源泉)も宿に引かれ、共に源泉かけ流しで楽しめます。また、かつては九州の温泉スタンプラリーである「九州温泉道」の選定施設でもあり、九州屈指の温泉を堪能できる宿と言っても過言ではありません。

※しび荘では、以前は日帰り入浴を受け付けていましたが、新型コロナウィルス感染症対策の一環で2021年1月から日帰り入浴不可になっています。
※九州温泉道(九州八十八湯めぐり)とは、数ある九州の温泉の中から本物こだわって選定された温泉をめぐり、温泉通を目指すスタンプラリーのこと。しかし、しび荘は日帰り入浴不可になったため、九州温泉道から脱退しました。

では早速、しび荘へ潜入してみます!

館内や客室はどんな感じ?

しび荘 外観

宿の外観は、田舎にある戸建て住宅の様なシンプルな佇まい。一見、旅館とは思えない雰囲気です。

エントランスホール

玄関をくぐると、いかにも民芸風といった印象。鹿児島の郷土愛がビンビンと伝わってきます。決してラグジュアリーではありませんが、ホッと落ち着けるほのぼのとした雰囲気に包まれています。

シングルルーム

今回筆者は一人泊でしたので、格安プランのシングルルームを予約。しかし、フカフカしたベッドやゆったりサイズの椅子など、十分にくつろげる空間です。また、小型ながらも冷蔵庫が設置。飲料水やアルコール類も冷やすことができるので、大変重宝しました。

アメニティ類

格安プランとはいえ、タオル・バスタオル・浴衣・歯ブラシは完備。浴衣に着替えて自由気ままに温泉へ行けるのは、この上無く便利です(笑)

和洋室 写真提供:旅籠しび荘

しび荘では、シングルルーム以外にも和洋室(6帖+ツイン)や和室もあります。ファミリーや親しい仲間同士で宿泊する場合は、そちらを利用しましょう。

旅籠しび荘の温泉は厳選かけ流し

内湯(男湯)。宿泊当日の夜に撮影

冒頭でも申し上げた通り、しび荘の最大の魅力は“温泉”そのもの。自家源泉と共同源泉を利用して、すべての浴室で源泉かけ流しの温泉を楽しめます。

時間と共に温泉の色が変化

特筆すべきは、時間の経過と共にお湯の色が変化する点。上写真は宿泊当日の夜に撮影したものですが、ほぼ透明ながらも薄っすらと宝石のエメラルドの様な蒼い色(あおいいろ、そうしょく ≒ 青緑色)でした。

内湯(男湯)。宿泊翌日の夜明け直後に撮影

しかし、早起きして夜明け直後に浴室へ行ってみると、何と!鮮烈なグリーン色へと変化。東日本では「新屋温泉」(青森県 ※休業中)や鳴子温泉の「ゆさや旅館」(宮城県)など、緑色へ変化する泉質は幾つかありますが、西日本ではほとんど例の無い大変貴重な泉質です。

これは、決して入浴剤を入れている訳ではありません。もちろん画像加工で作られた色でもありません。あくまで大地の恵みから生み出された天然の色なのです!

とはいえ、温泉が緑色に変化する理由は、実はまだまだ解明できていない点が多いです。少々専門的な話になりますが、一般的には中性からアルカリ性に属し、硫化水素イオンという硫黄成分が多量に含まれると、緑色になる傾向にあります。

小判型の浴槽は“神の湯”を使用

また紫尾温泉の泉質は、アルカリ性が高い上に重曹成分の純度が高く、浸かるだけで余分な皮脂を落とす作用があります。まさに典型的なクレンジング系美肌湯と言えるでしょう。そのためにローションの様なヌルヌル感があり、柔らかな肌触りに癒されます。

共同源泉(神の湯)と自家源泉は、共に同系列の泉質。共同源泉は源泉温度が約50度と理想的で、加水・加温・消毒・循環一切無しの源泉100%かけ流しで提供されています。

長方形の浴槽は自家源泉を使用

一方で自家源泉は“下の湯”とも呼ばれ、源泉温度は約43度と適温やや温め。こちらも源泉かけ流しですが、季節によっては弱く加温して提供されることもある様です。お湯の色は、筆者の過去入浴の経験論で言えば、やや渋いモスグリーン色になる傾向が多い気がします。
※共同源泉も自家源泉もお湯の色は一定せず、完全に透明な場合もあります。

また熱めの共同源泉と、ややぬるめの自家源泉があるので、お好みの温度の温泉を選べる点も嬉しい限りです。

旅籠しび荘の露天風呂は川の目の前

露天風呂。2007年撮影

しび荘には内湯と別の場所に、小ぶりながらも露天風呂があります。内湯から出て再度服を着なければ行けませんが、眼前に清流が迫る風流な造りで、こちらもぜひ入浴しましょう。なお露天風呂では、共同源泉と自家源泉をミックスして使用しています。

※筆者滞在中は終日雨だったので、前回訪問時の2007年に撮影した写真を付けています。

旅籠しび荘での食事は地元食材をふんだんに使用した田舎料理

しび荘は、あまり知られていませんが、実は料理自慢の宿でもあります。手の込んだ種類豊富な料理が、客の食べるタイミングを見計らいながら、少しずつ運ばれてきます。

旅籠しび荘の夕食

夕食の一部(前菜・御造り・焼き物・鍋など)

鹿児島県の薩摩地方は海も山も程近い立地にあり、そのせいか海の幸と山の幸がバランス良く提供されている印象。全体的に脂っこい料理が少ないせいか、自然と食が進みます。猪のぼたん鍋は猪特有の臭みを感じず、やや田舎料理風の素朴な味付けながらも、美味しく頂けました。

鹿児島産きなこ豚の西京漬焼肉

焼肉は、鹿児島県産のきなこ豚を使用。きなこ豚は歯ごたえの柔らかさとサッパリした味わいが特徴ですが、西京味噌のコクのある味と不思議とマッチした美味でした。

※西京漬とは京都の伝統料理で、京都名産の西京味噌に旬の魚や肉の切り身などを漬け込んで作ったもの。
※料理内容は、季節により変動があります。

旅籠しび荘の朝食

朝食

朝食は、オーソドックスな旅館の和朝食です。ご飯は自家製のひのひかりを使用。ふっくらと炊き上がったご飯は噛めば噛むだけ甘味が増し、ついついおかわりしてしまいました(笑)

旅籠しび荘って、どんな人におすすめ?

最後になりますが、旅籠しび荘は以下のような方におすすめです。

・源泉かけ流しの温泉と泉質に断然こだわる方
・温泉も料理も両方大事!どちらも捨てられないと思う方
・お値段以上!ハイコスパな宿をお探しの方
・静かな環境でのんびりと過ごしたい方

ぜひ参考にして下さいね!

DATA
紫尾温泉「旅籠しび荘」
住所:鹿児島県薩摩郡さつま町紫尾2168
電話番号:0996-59-8001
アクセス:
【車】九州自動車道 横川ICから車で約45分
【バス】JR出水駅から南国交通バス空港行きシャトルバスで宮之城下車、タクシーで約15分
公式サイト:旅籠しび荘

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ライター 権丈俊宏

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