別所線は2019年10月の「令和元年東日本台風」により上田~城下間の千曲川橋梁が落下し、長らく復旧工事が進められていましたが、2021年の3月28日に全線復旧!約1年半ぶりに千曲川を渡り、上田駅に乗り入れを果たしました。
ところで、そんな上田電鉄別所線で、東急電鉄で活躍した車両が2両編成になって活躍しているってご存知でした?首都圏の電車が、その路線での活躍を終えた後、地方にわたって第二の人生を送るという例は珍しくありませんが、その沿線に慣れ親しんだ人から見れば感慨深いものです。今回は2021年全線復旧を果たした上田電鉄がどんな路線なのか、ざっくりと解説していきたいと思います。
「信州の鎌倉」まで11,6km
上田電鉄別所線は、北陸新幹線、しなの鉄道と接続する上田駅から、信州有数の温泉街、別所温泉駅までの11,6kmを結んでいます。全線単線のため、ところどころで対向列車を待ち合わせながら終点へと向かっていく運行形態。本数は上下線とも1時間に2本。1時間に1本しかない時間帯もあるので気を付けましょう。
起点の上田駅は、上田城へ続くお城口と、千曲川に近接する温泉口に出口が分かれています。お城口からまっすぐ伸びる大通りを進み、「中央2丁目」交差点で左に曲がった先に見えるのは上田城跡公園。真田幸村の父、真田昌幸が1583(天正11)年に築城した上田城は、1585(天正13)年の第一次上田合戦、1600(慶長5)年の第二次上田合戦の二度にわたって徳川軍の侵攻を阻止した難攻不落の城として有名です。
公園内には櫓門や、戦国時代には千曲川が流れていた尼ヶ淵側の石垣など、上田城にかかわる様々な史跡が残っており、周辺にも上田市立博物館や、上田城下町・北国街道など多数の観光スポットが点在しています。歴史ファンにもおすすめ!
元都会の列車がのびのびと、大自然の活躍中
現在、上田電鉄別所線「1000系」「6000系」という車両が計5編成活躍していますが、全て東急電鉄で活躍していた車両だというのが特徴的!東急時代は、東急東横線から東京メトロ日比谷線の北千住駅まで乗り入れたり、池上線・多摩川線で3両編成で走ったりしていましたが、別所線では2両編成になり、首都圏とは全く異なる風景の沿線を行き交っています。
東急池上線・多摩川線では3両編成の1000系が現在も活躍を続けていますが、別所線に移り住んだ車両はさらにのんびりした雰囲気。「これぞ電車」と思わんばかりの特徴的なモーター音も健在です。
終点の別所温泉は「信州の鎌倉」とも呼ばれ、信州最古の温泉地としても有名です。宿泊はもちろんのこと、入浴のみの外湯(共同浴場)めぐりや、「別所神社」「北向観音」をはじめとする神社仏閣・文化財などをめぐる観光もできます。
上田市街地から信州屈指の神社へ(上田~下之郷間)
ここからは、実際に電車に乗ってどんな景色が見えるかご紹介しましょう。起点の上田駅は高架駅になっており、発車すると左に大きくカーブしつつ地上に降りてきます。
高架が終わると同時に踏切を渡り、千曲川橋梁を渡ります。この橋は5連続の赤いトラス橋となっていて、沿線から見ても非常に印象的。別所線のシンボルともいえる橋梁です。もちろん、電車からも千曲川は良く見えて、「ドドンドドン」と音を響かせ橋を渡りながら、水しぶきを立てつつ流れる川をまたぐのは、荒々しくも大迫力。
千曲川を渡り終えた後、しばらくは住宅地と畑が混在する沿線を走ります。全体的にきついカーブが多く、幹線のような速度では走れませんが、それでも元東急のステンレスの電車は上田市内をひたむきに走り、地域交通、そして町の風景として馴染んでいるので、東急時代にはなかった風情があります。
生島足島神社に立ち寄りたい下之郷駅
途中の下之郷駅は、上下線の電車が必ず待ち合わせをし、車庫も併設されている別所線の重要な駅。神社の鳥居を思わせる朱色の柱や、待合室の外観が特徴的です。また朝は下之郷止まりの電車も存在するので、当駅始発で上田方面に折り返す場合もあります。
下之郷(しものごう)駅は、生島足島(いくしまたるしま)神社の最寄り駅でもあります。同社公式サイトによると、ここは生きとし生ける万物に生命力を与えるとされる「生島大神」と、生きとし生ける万物に満足を与えるとされる「足島大神」が祀られており、摂社(下宮・下社)には「諏訪大神」が祀られている信濃屈指の古社。
池に囲まれた本殿の中、室町期に建立された「御室」と呼ばれる内殿には床板が無く、大地そのものがご神体として祀られています。夫婦円満・良縁・子宝祈願としても有名です。また、神社のすぐ近くには「そば茶屋 生島の杜」というお食事処もあるので、お昼ご飯も下之郷でいかが?
田園地帯の先に温泉街が待っている(下之郷~別所温泉間)
下之郷駅を出ると右に大きくカーブ。あまりに急なためレールからは「キィィィィ」ときしむ音さえ聞こえてきます。ここから電車は別所温泉駅へ向けて、塩田平の田園地帯を走っていきます。左右どちらを見渡しても遠方まで続く田畑を見ながら電車に揺られて進みます。筆者の訪問時は寒い時期だったので収穫を終えた後の区画しか見られませんでしたが、暖かい時期はこの田んぼ一面が緑に、そして黄金色に色を変えていくことでしょう。
ちなみに下之郷~別所温泉間に行き違い設備は無く、別所温泉駅に向かった電車がそのまま上田方面に折り返してきます。
その途中にある塩田町駅は、戦没画学生慰霊美術館「無言館」の最寄り駅。第二次世界大戦へ学徒出陣し、志半ばで戦死した画学生らの作品がここには展示されています。周りを緑に囲まれた館で、当時の画学生のこと、そして太平洋戦争のこと、両方を学ぶことができるでしょう。
なお、無言館へは塩田町駅から歩くと30分はかかります。下之郷駅から乗れるシャトルバスも無言館を通りますので、こちらを利用するのも手です。筆者は過去に無言館を1回訪れたことがありますが、行きも帰りも見渡す限りの田んぼで、思いっきり道に迷いました・・・。
引き続き別所線は塩田平の田園地帯をことこと走ります。終点の一つ前、八木沢駅を出ると待ち構えているのは40パーミルの急勾配!「パーミル」とは、1km進んだ時に何メートル高低差が生じるかを表します。ここは40パーミルなので、1km進んだら40メートル上ることになり、鉄道の中でもかなり急な勾配になるのです。
見事この坂を上りきったら終点・別所温泉駅に到着!パステルカラーの洋風レトロな駅舎と、駅前駐車場に静態保存されている、紺色とクリーム色の旧型車両「モハ5252号」がシンボルになっています。
別所温泉でのんびり。1泊するも良し日帰り温泉利用も良し
前述の通り、別所温泉は信州有数の温泉街。周辺エリアの神社仏閣などを見学した後や、別所線を1日乗り回した後に入る温泉は、その日の旅の疲れを取ってくれるでしょう。別所温泉観光協会公式サイトによれば、別所温泉は単純硫黄温泉、つまり弱アルカリ性の泉質となっています。そのため肌の古い角質層を軟化させ、毛穴の汚れを取ったりメラニンを除去したりすることによる美肌効果があるとのこと。体の疲れを癒しつつ、お肌をいたわってあげられそうですね。
1泊せずとも日帰りで温泉に浸りたい場合は、駅から下り坂を少し下ったところにある日帰り温泉「あいそめの湯」もどうぞ。また、駅前から2方向に分かれる上り坂を右に進み、「長谷川豆腐店」前の分かれ道を左折したところにある「足湯ななくり」も筆者としてはおすすめ!全身がっつりお湯に入らずとも、足を温めるだけでもかなり良い気分に浸れるはずです。
なお、別所線では基本的にワンマン運転が中心で、車掌が乗務することは少ないです。ワンマン電車では、上田駅・下之郷駅・別所温泉駅を除き、前の車両の後ろのドアから乗車し、一番前のドアから降りる方式となります。乗車駅からの運賃は、下車時に運転席前の運賃箱に支払うので、小銭を必ず用意しておきましょう。きっぷがある場合は運賃箱にきっぷを入れればOK!
もっとも、首都圏でも東急池上線・多摩川線、地下鉄各線などではワンマン運転が行われていますが、都市型のワンマン運転と地方型のワンマン運転では料金の支払い方法が異なります。そのことも覚えておいていただければ何より。
3月28日に全線復旧した当日は・・・
ところで、別所線は2019年10月に発生した台風被害により、千曲川の左岸堤防(城下駅側の堤防)が崩落、上田~城下間の千曲川橋梁が落下し、通行不能になっていました。復旧工事が進められている間は城下~別所温泉間で折り返し運転(2019年10月15日から11月15日は下之郷~別所温泉間折り返し)となり、電車運行のできない部分では代行バスが運行されていました。
筆者は2020年12月に別所線を訪れており、その時に代行バスの様子も見ていました。筆者が見た限り代行バスの利用者はそれなりに多く、上田市内の各駅から上田駅に乗り入れることが、住民にとっていかに重要なのか思い知りました。
千曲川が渇水期に入る冬期に復旧作業が進められ、2021年3月28日をもって全線で電車運行が再開!その当日は地元内外から非常に多くの住民やファンが千曲川橋梁に駆けつけ、復活した5連トラス橋を撮影したり、電車に手を振ったりする人々の活気で満ちあふれていました。
また、護岸工事の行われた左岸堤防では関係者による記念式典も行われ、11時15分頃には記念列車が千曲川橋梁を上田駅に向かって通過。その際、上田東ロータリークラブの企画により、その場で参加を募った人々が対岸から一斉に電車に傘と手を振ることで、一般住民も別所線の全線開通をお祝い。別所線の全線復旧当日は、ローカル鉄道を通して人々の心が豊かになる、そう感じ取れる瞬間に立ち会うことができました。
今回は2021年3月の全線運転再開で話題の、上田電鉄別所線のことをご紹介しました。短いローカル鉄道ですが、過去に東急電鉄で走っていた車両が活躍の場を移し、第二の人生を送る姿に立ち会うことができます。首都圏とは違う地方都市の沿線をのんびり巡りつつ、最後は温泉でまったり、という楽しみ方もできますね。沿線のシンボル・千曲川橋梁の復活で注目したい別所線を、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
DATA 上田電鉄 上田駅(長野県上田市)~別所温泉駅(長野県上田市)まで全長11,6km 公式サイト:上田電鉄