南イタリア最大の街ナポリで生まれた「ピザ」。今やイタリア料理を代表するひと皿です。ナポリでピザは早い!安い!旨い!の大衆食。誰もが気軽に食べる身近な料理。現地を訪れたら必ず食べてほしい名物です。
今回は南イタリア在住の筆者がナポリのピザ(イタリア語でピッツァ・ナポレターナ)について、作り方や食べ方のルール、ナポリで外せないピザの名店をご紹介。また、海外旅行ができない今だからこそ、日本でもたべていただきたい本場ナポリの味を受け継いだお店を紹介します。
耳はパリッ、中はふわモッチリ食感のピザの味を想像しながら読んでください(笑)。
目次
ピザの誕生
日本を含め世界で日常的に食べられる「ピザ」。ピザがイタリア・ナポリで生まれたことをご存知ですか?ピザのルーツは紀元前にエジプトでパンが発明されたこと。その後、地中海の各地で古代ギリシャ風の平たいパンが普及します。
トマトもモッツァレラチーズもナポリになかった時代には、ニンニク、塩、ラードをこの平たいパンにのせ、焼いて食べていました。順にチーズとバジリコの贅沢なトッピングも誕生します。その後、スペイン支配下でトマトが持ち込まれ、貧しい人々の間でトマトをパンと一緒に食べる食習慣が定着。
歴史書によると1715~1725年にはナポリにピザ屋が存在し、その頃には既に私たちが知る現在のピザが庶民に親しまれる料理になっていました。ちなみに、世界最古のピザは「マリナーラ」(船乗りの意味)で気が短く大喰いの漁師たちの大好物だったそう。
ナポリピザの職人技が世界遺産に!
世界中で人気のピザ。その人気とともに本家イタリアでは見ることがない「?」なピザも世界各地で登場します。そこで「待った!」のひと声を上げたのがナポリのピザ職人。昔から受け継がれてきた伝統をきちんと伝承しようと「本物のナポリピザ」の擁護に乗りだしたのです。
ピザ職人の協会が1980年代に作られ、2010年にはEUから「伝統的なレシピや製法に基づいて作られた製品」として「S.T.G.」に認定。そして、2017年にはナポリ伝統のピザ作りの技法がユネスコの「世界無形文化遺産」に!当時はピザ生地を空中でグルグル回しながら広げる職人技が新聞の一面を飾りました。
尚、イタリアではピザ職人を「ピッツァイオーロ」と呼び、ピザの聖地ナポリでは職人の技術を競う世界大会を開催。近年は日本人が次々と優勝の快挙を達成してます。
簡単なようで難しいナポリピザの作り方
ナポリピザの原料は小麦粉、酵母、食塩、水のみ。作り方はS.T.G.規約で細かく定められ「生地づくり(練り・発酵・成形)→具をのせる→釜で焼く」という流れ。
生地づくりは水に塩とイーストを溶かし、小麦粉を少しずつ加え、ちょうどよい固さになったら20分練ります。その後、休ませ、180~250gずつ手でちぎって分割。丸めて25℃で4~6時間発酵させます。
生地の成形はピザ職人の腕の見せどころ!親指以外の8本の指を使って中心から外側にむけて伸ばしていきます。サイズは直径30cm程度、厚さは薄い中央部分が4mm以下、外側の耳(イタリア語でコルニチョーネ)は2cm以下。最後に485度の薪釜で60~90秒焼いたら完成です。
ローマピザとナポリピザの違い
イタリアでピザといえば、ナポリとローマが有名です。「両者のピザはどこが違うの?」と疑問に思う人も多いはず。そこで、違いを簡単に説明します。
ナポリピザは生地に弾力があり、モチモチした食感。分厚い耳(コルニチョーネ)があるのが最大の特徴です。手で丁寧に成形した生地を高温の薪釜で短時間で焼き上げます。
一方、ローマピザには耳がなく、生地はとても薄くカリカリした食感です。生地づくりの材料にはオリーブオイルも加わり、麺棒で成形するのも大きな違い。最後の釜焼きの時間もナポリピザの2~3倍かかります。
ピザ専門店・ピッツェリアとは?
ナポリのいたるところで見かける「ピッツェリア」は、ピザ専門のレストランのこと。お店によってはコロッケなどの揚げ物や野菜料理など、ちょっとしたサイドメニューからデザートまで揃ってます。
特徴は「価格が安い」「料理の待ち時間が短い」の2点。日本でいうところのラーメン屋のような存在です。食事より観光に予算と時間を割きたい人にはピッタリ。
ピッツェリア・入店から退店までの流れ
まずはピッツェリアの入店から退店までの流れを簡単に説明します。
- 入店時は挨拶をして席に着き、メニュー表を見て注文
- 食事が終わったらテーブルで会計を済まし、挨拶をして退店
尚、チップは基本的にテーブルチャージに含まれるので不要です。ただし、特別な配慮や快いサービスを受けた場合に支払うことは問題ありません。その際の目安は一人1~2ユーロです。
実は他の地域ではピッツェリアは夜しか営業しませんが、本場ナポリは昼も開いてます。ピザが好きな人はランチもディナーもピザ三昧が楽しめますよ。
基本のナポリピザ
初めてナポリでピッツェリアを訪れる旅行を計画している方にぜひ覚えておいてほしい、最低限知っておきたいピザの種類をご紹介します。
マルゲリータ(Margherita)
ピザの代名詞である「マルゲリータ」は、1889年に王妃マルゲリータに献上されたイタリア国旗をイメージしたピザ。バジリコ(緑)、モッツァレラチーズ(白)、トマト(赤)のアイデアとその美味しさを王妃が大変気に入ったそう。
モッツァレラチーズは牛乳製と水牛乳製の2種類があり、お値段は若干高くなりますがミルクのコクが増すので後者がオススメ。お店によって名前は変わりますが「マルゲリータDOP」や「ブファリーナ(Bufalina)」とメニューに記載されてます。
マリナーラ(Marinara)
次は、ピザ好きだったら押さえておきたい!世界最古のピザ「マリナーラ」。トマト、オレガノ、ニンニクをのせたチーズなしのピザです。
ナポリの漁師がお腹を空かせてパン屋を訪れたとき、ちょうど店にあったトマトとパンで美味しいものを作らせたのがはじまり。そこに、ナポリ料理ではよく使われるニンニクとオレガノが加わり、現在のマリナーラになりました。
ピッツァ・フリッタ(Pizza fritta)
最後は、異色のカテゴリーである「揚げピザ」(イタリア語でピッツァ・フリッタ)。作り方の違いで2つのタイプに分かれます。
まずはピザ生地に具をのせ半分に折って揚げる「ピッツァ・フリッタ」。そして、もうひとつの「モンタナーラ」は最初にピザ生地を揚げ、具を後のせするタイプ。どちらも合わせる具は無限大の組合せ。ビールがどんどん進む揚げピザは一度トライする価値あり。
イタリアでのピザの食べ方とマナー
異国の地のレストランで気になることは、食べ方のマナー。名店の紹介の前に、イタリアでのピザの食べ方・マナーについてお教えします。
ピザはひとり一枚
日本では一枚のピザを大人数でシェアするのが当たり前ですが、イタリアではひとり一枚を注文するのがマナー。一枚だけ頼んで2人でシェアするのはNGです。お店によっては「ひとり一枚ピザを注文してください」とメニューに記載があることも。
一度にたくさんの種類を食べたい場合は、一枚のピザに複数のトッピングがのった「カプリチョーザ」や「クアットロ・スタジオーニ(四季の意味)」を選ぶのが賢い選択。食べきれないときは、お願いするとテイクアウト用の箱に入れてくれます。
フォーク&ナイフを使います
ピッツェリアではテーブルにフォークとナイフが出されます。日本人が食べ慣れたカットピザとは異なり、ナポリピザは釜出しから5分以内に食べるのが理想のためカットされていません。そこで、運ばれてきたピザを自分で食べやすい大きさに切り、丸めてフォークで固定して口元に運びます。
フォークとナイフを使って食べるのが難しい場合は手を使ってもOK。ただし、ソースやチーズが熱いのでやけどにご注意を。
タバスコのリクエストはNG
日本人が大好きなピザ&タバスコ。なんと、イタリアではタバスコの存在すら知らない人がほとんど(笑)。
辛味を加えたい場合はオリーブオイルに唐辛子を漬けた「オリオ・サント」をお願いしましょう。
ただし、イタリア人は基本的に辛いものが苦手。すべてのピッツェリアに用意されているわけではありません。
長居は無用
ピザはイタリアの大衆食、例えるなら日本のラーメンのような存在です。食事が済んだらおしゃべりなどで長居せず、次のお客さんに席を譲りましょう。人気のピッツェリアでは入店まで30分以上並ぶのはよくあること。少しでも待ち時間が短くなるようお店に協力しましょう。
ナポリでおさえたい5つの名店
ここでは、ナポリでおすすめのピッツェリアをご紹介します。歴史に名を残す老舗から世界に知られる超人気店、穴場の隠れ家やアイデアマンの実業家のお店、そして、パンチが効いた名物女将がいる名店の5軒です。
マルゲリータ発祥の店「ブランディ」
まずはマルゲリータを発明した「ブランディ」です。1889年に王妃にイタリア国旗をイメージしたピザを献上したエピソードで一躍有名に。店内には今でも王室の料理長から贈られた感謝状が展示されています。
創業は1780年、イタリア元首相ベルルスコーニ氏やオペラ歌手ルチアーノ・パヴァロッティなど数々の有名人が訪れた老舗。看板メニューは言わずと知れた「マルゲリータ」(5.5ユーロ)。現在はその歴史的知名度を活かしドバイにも支店があります。
店内は上品な雰囲気のレストラン、反対に外のテラス席ではナポリの雑踏を肌で感じながら食事ができます(笑)。スタッフはウェルカムムード満点!筆者が訪れたときには職人さんと記念撮影も。一度は、ここで王妃気分になって元祖マルゲリータを味わってみてください。
DATA ピッツェリア・ブランディ(Pizzeria Brandi) 所在地:Salita S. Anna di Palazzo, 1/2, 80132 Napoli NA, イタリア URL:ブランディ公式ページ(日本語) 営業時間:12時30分~16時 / 19時30分~23時30分 定休日:月曜 アクセス:プレビシート広場から徒歩4分
ナポリ人気ナンバー1のピザ屋「ダ・ミケーレ」
ミシュランもその美味しさを認める、ナポリで1、2を争う人気店「ダ・ミケーレ」。地元住民から海外の観光客までが押し寄せ、連日大行列。夕食時には3時間待ちも当たり前!入店するには番号付きの整理券を入口で取り、自分の番号が呼ばれるまで待ちます。
メニューは1870年の創業当時から「マルゲリータ」と「マリナーラ」の2種類。大きさは3サイズから選べますが、日本人なら一番小さなノルマーレで十分(各4ユーロ)。店内は大衆食堂といった雰囲気で3名以下で訪れる場合はほぼ相席になります。
尚、世界進出に意欲的でナポリ本店以外にイタリア国内8店舗、日本を含めた海外に12店舗あります。
DATA ランティーカ・ピッツェリア・ダ・ミケーレ(L'Antica Pizzeria da Michele) 所在地:Via Cesare Sersale, 1, 80139 Napoli NA, イタリア URL:ダ・ミケーレ公式ページ(イタリア語) 営業時間:11時~23時 定休日:なし アクセス:ナポリ中央駅から徒歩13分
巨大ピザが名物の「トリアノン」
続いては、1923年創業の隠れ家的なピッツェリア「トリアノン」です。といっても、ナポリ庶民にはこちらもおなじみの一軒。ここのピザは驚くほど大きいので「馬車の車輪」という異名をもちます。
お店の向かいにあるトリアノン劇場から店名を取ったとおり、昔から劇場関係者がよく訪れるスポット。ナポリ出身の有名俳優トトもここの巨大ピザをよく食べました。メニューの特徴は、なんと!18種類もあるマルゲリータ(基本のマルゲリータは5ユーロ)。
お店は150席の広さを誇るため、ほぼ並ばずに美味しいピザにありつけます。店内は大理石で囲まれちょっとリッチな食堂といった感じ。入口の横にはオープンキッチンとピザ釜があり見学は自由。近郊のソレントとサレルノにも支店があります。
DATA ピッツェリア・トリアノン(Pizzeria Trianon) 所在地:Via Pietro Colletta, 44, 80139 Napoli NA, イタリア URL:トリアノン公式ページ(イタリア語) 営業時間:11時~15時30分 / 19時~24時 定休日:なし アクセス:ナポリ中央駅から徒歩13分
若手実業家が経営する「ソルビッロ」
イタリアのテレビでおなじみのピザ職人兼実業家のジーノ・ソルビッロ氏が経営する「ジーノ・エ・トト・ソルビッロ」も根強いファンが多い有名店です。イタリア国内に8店舗、東京、ニューヨーク、マイアミに支店を展開中。さらに揚げピザ専門店5店舗をもつ超やり手。
ミシュランが認めるハイクオリティのピザを提供するのはもちろんのこと、彼はナポリで実際に起きたピザ強盗事件に心を痛めて昔の“代金後払い制”を復活させるなど、地元貢献と広告を兼ねたプロモーションの神様。最近ではイタリア前首相のコンテ氏にピザ作りを教えたことで話題を集めました。
モダンな店内で食べるピザは、伝統的なものから現代風のトッピングまで。特にオシャレなピザを食べたいグルメ層や若者に大人気!
DATA ジーノ・エ・トト・ソルビッロ(Gino e Toto Sorbillo) 所在地:Via Dei Tribunali, 32, 80138 Napoli NA, イタリア URL:ソルビッロ公式ページ(イタリア語) 営業時間:12時~15時30分 / 19時~23時30分 定休日:日曜 アクセス:サン・セヴェーロ礼拝堂から徒歩2分
名物女将がいる「ラ・フィーリア・デル・プレジデンテ」
最後は、揚げピザで有名な「ラ・フィーリア・デル・プレジデンテ」。お店の顔は力強く人情深い“ナポリ女の典型”である女将のマリアさん。美味しいピザだけでなく彼女目当てに通う常連客も多いのです。
彼女の父は、米元大統領ビル・クリントン氏お気に入りのピザ職人エルネスト氏。彼が“大統領のピザ職人”と呼ばれていたことから、彼女も「大統領の娘(ラ・フィーリア・デル・プレジデンテ)」という店名を選んだそう。
提供するピザは40種類を超えるバリエーション。なかでも一番人気は自慢のピッツァ・フリッタ(6.5ユーロ)。マリアさんのイラストが効いたポップな店内は快適な大型店(150席)です。2020年にはお店から徒歩1分の場所にレストランを開店。気になる方はこちらものぞいてみてくださいね。
DATA ラ・フィーリア・デル・プレジデンテ(La Figlia Del Presidente) 所在地:Via del Grande Archivio, 24, 80138 Napoli Na,イタリア URL:ラ・フィーリア・デル・プレジデンテ公式ページ(英語) 営業時間:12時~15時30分 / 19時~23時30分(土曜は24時まで) 定休日:日曜 アクセス:サン・セヴェーロ礼拝堂から徒歩8分
日本にもあるナポリの名店の支店!
今すぐイタリア・ナポリに飛んでピザを食べつくしたい!しかし、残念ながら海外旅行ができる人はごくわずか。
そこで、日本国内で本物のナポリピザが食べられる有名ピッツェリアの日本支店を紹介します。
ダ・ミケーレ(東京・恵比寿)
ナポリで絶大な人気を誇る「ダ・ミケーレ」のピザが東京・恵比寿で味わえます。メニューはマルゲリータとマリナーラの2種類に加え、季節のピザやバリエーションピザも数種類あります。
本場ナポリで修業したピザ職人がナポリから仕入れた材料で作る本場の味。ぜひ一度、パリッ!ふわモッチリ食感のナポリピザを体験してみてください。他に横浜と福岡にも店舗があります。
DATA アンティーカ・ピッツェリア・ダ・ミケーレ 恵比寿 所在地:〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿4丁目4-7 URL:ダ・ミケーレ恵比寿公式ページ 営業時間:11時30分~15時 / 17時30分~22時(土日は通し営業) 定休日:なし アクセス:JR山手線・埼京線「恵比寿駅」東口 徒歩3分
ジーノ ソルビッロ アーティスタ ピッツア ナポレターナ(東京・日本橋)
2019年にソルビッロ氏の日本支店が東京・日本橋の「コレド室町テラス」にオープン。カリスマ性をもつ彼のセンスが随所に感じられるオシャレな店内では8種類のピザがいただけます。なかには日本では珍しいピッツァ・フリッタも!
さらに、平日のランチタイムには数量限定でパスタ料理も登場。ピザとパスタの両方が楽しめる欲張りなランチが実現できちゃいます。
DATA ジーノ ソルビッロ アーティスタ ピッツア ナポレターナ 所在地:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3丁目2−1 営業時間:11時~21時 定休日:なし アクセス:東京メトロ半蔵門線・銀座線「三越前」駅徒歩2分
ナポリでピザは見逃せない名物グルメ
ナポリピザのあれこれ、いかがでしたか?ナポリに行ったら、ピザを食べずには帰れないほど“必食のご当地グルメ”です。現地で基本のピザといえば「マリナーラ」と「マルゲリータ」ですが、ピッツェリアによりメニューやお店の雰囲気が変わります。あなたのお気に入りを見つけてください。
ちなみに、筆者がナポリで衝撃を受けたピザがトリアノンの「玉子のせマルゲリータ」(写真)。ナイフを入れると半熟とろっとろの黄身が溢れ出し、トマトの程よい酸味とマイルドな黄身の素晴らしいコントラスト…ニクイほど緻密に計算された味でした。気になる人はぜひ現地で!