戦国時代、大出世を果たした武将といえば豊臣秀吉。半農の下級武士から天下を統一、関白、太閤殿下と呼ばれるまで上りつめます。この出世の階段を駆け上っていった足跡が最も色濃く残るのが滋賀県長浜市です。
出世の足がかりとなった姉川の戦いや浅井長政の居城・小谷城、はじめて治めた長浜の町と城、そして織田信長亡き後の主導権を争った賤ヶ岳の戦い。
長浜市内に残る、秀吉ゆかりのスポットを巡ります。
目次
秀吉と長浜
戦国一の大出世を果たし、後に関白の位にまで上りつめた豊臣秀吉。尾張中村で半農の下級武士の家に生まれたといわれています。放浪の末、織田信長に仕え草履取りからスタート。着実に出世を重ね、近江の浅井攻めでの功績が認められて、ついに北近江に12万石の領地をもらい「城持ち」となります。
この時、名乗っていた木下姓を織田家重臣の柴田勝家と丹羽長秀から一字ずつ頂戴して羽柴とし、羽柴秀吉(以下、秀吉)と名を改めました。そして、浅井氏の拠点だった小谷城を廃城し、新たに「今浜」の地に城を築城。信長から一字もらい「長浜」に改め長浜城とします。
名前、もらいまくりです。同僚たちも呆れるほどのゴマすり。妬み嫉みだらけ、出る杭打たれながら突き抜けた秀吉のすごさ、がむしゃらさが想像できます。
秀吉は、ここ長浜で織田信長亡き後の覇権を確立し、天下取りに踏み出しました。
JR長浜駅からスタート
長浜駅の開業は1882(明治15)年。日本海へと向かうルートの始発駅として開業しました。
ん?始発駅?って、思いますよね。そうなんです。この頃の鉄道は、大阪・京都からは大津まで。大津からは、琵琶湖を船で渡り長浜で鉄道に乗り換えて日本海へと向かっていました。明治になっても長浜が交通・物流の拠点になりえたのは、長浜を商業都市として発展させた秀吉の功績といえるでしょう。
鉄道好きにはたまらない長浜鉄道スクエアも
当時の長浜駅駅舎は、現存する日本で最も古い駅舎です。移設されることなく「長浜鉄道スクエア」として一般公開されています。
館内には、鉄道史にまつわる貴重な資料やD51形793号蒸気機関車、ED70形交流電気機関車が保存展示されています。
場所は、現在の長浜駅から徒歩3分。2022年は、長浜駅開業140周年(鉄道開業150周年)なので、注目のスポットになることでしょう。
DATA 長浜鉄道スクエア(旧長浜駅舎/長浜鉄道文化館/北陸線電化記念館) 所在地: 滋賀県長浜市北船町1-41 開館時間:9時30分~17時まで ※入館は16時30分まで 入館料:大人300円、小中学生150円 休館日: 12月29日~1月3日 公式サイト:長浜鉄道スクエア公式サイト
秀吉ゆかりの城・長浜城
駅から近い秀吉ゆかりの観光スポットといえば、長浜城。
1575(天正3)年に秀吉が建てた長浜城は短命で、大坂の陣があった1615(慶長20)年に廃城。解体されて、彦根城の建設資材になってしまいます。彦根城のシンボルでもある天秤櫓(国・重文)は長浜城から移した部材でできているとか。
現在の長浜城は、1983(昭和58)年に再建された模擬復元天守で、市立長浜城歴史博物館になっています。実際に天守があったとされる場所は、長浜城歴史博物館がある豊公園内北、琵琶湖畔近くにあります。ひっそりとした場所ですが、豊臣秀吉公像が待っています。
それでは長浜城の中へ…と行きたいところですが、長浜城歴史博物館は2022年3月末まで改装中。リニューアルオープンが待たれます。この間、御城印は長浜駅前の「えきまちテラス長浜」1階のツアーセンターで販売されています。
DATA 長浜市立長浜城歴史博物館 所在地:滋賀県長浜市公園町10−10 休館日: 2021年8月1日〜2022年3月31日 (耐震改修工事のため) 公式サイト:長浜城歴史博物館
近江牛ランチを黒壁スクエアで
現在の長浜は、長浜太閤温泉や竹生島への観光船乗り場など、湖北の観光拠点。なかでも、長浜の古い町並みを活かした黒壁スクエアは、長浜に来た人が必ず訪れるといってもいい観光スポット。長浜はご当地グルメも豊富なうえ、ガラス製品などのお土産、制作体験などがあり、観光客で賑わっています。
歴史散策にあまり興味がない人との旅でも、黒壁スクエアをルートに組み込めば、きっと喜んでくれることでしょう。
写真は、気軽に入れるフレンチレストラン「びわこレストラン ROKU」の近江牛ステーキランチコース(3980円、税込)の中のひと品。モモ肉の中心にあるマルシンを使った赤身肉のステーキです。サシの入り具合とやわらかさは格別。江戸末期の商家を改装した趣ある店内で、コース仕立てのランチタイムを楽しめます。ディナーコースはもちろん、喫茶利用(和栗専門店 茶寮)もできますよ。
DATA びわこレストランROKU 所在地:滋賀県長浜市元浜町11-23 営業時間(ランチ): (平日)11時~15時 L.O.14時、 (土日祝)11時~16時 L.O.15時 営業時間(ディナー): 18時~21時 営業時間(茶寮):11時~17時(予約不可) 10時より当日分の整理券を配布 休業日:水曜日 公式サイト:びわこレストランROKU
長浜には、温泉もあります。長浜太閤温泉といい、湖畔にいくつかの温泉旅館やホテルがあり、泊まりでの観光にもオススメです。琵琶湖の夕景と郷土料理をはじめ豊かな琵琶湖の食材をふんだんに取り入れた料理。長浜を満喫できます。
秀吉が手柄をあげた「姉川の合戦古戦場」と「小谷城跡」
長浜駅から車で約20分のところに、秀吉が城持ちになるに至った一連の戦いの舞台があります。
今回は、近江タクシーで行ってみました。
乗車したのは、「戦国無双」(コーエーテクモゲームス)とのコラボレーションで生まれた戦国無双タクシーの大谷吉継号。利用方法など、詳しくは近江タクシー公式サイトを参照ください。
DATA 公式サイト:近江タクシー
まずは、1570(元亀元)年の姉川の戦い。織田・徳川VS朝倉・浅井の軍勢が姉川を挟んで戦いました。姉川にかかる旧野村橋(老朽化のため車両通行禁止)のたもとに記念碑と案内板が設置されています。当時の姿とは異なるでしょうが、両軍合わせ3〜4万人が戦った激戦の地と思えば、感慨深いです。
観光案内板めぐりになりますが、周囲に陣跡や血原公園など姉川合戦ゆかりのスポットがあります。
DATA 姉川の合戦古戦場 所在地:長浜市野村町
さらに北へ約10分。「小谷城戦国歴史資料館」があります。中世三大山城のひとつ浅井氏拠点・小谷城があったところです。戦国一の美女と伝わるお市の方(織田信長の妹)とその子浅井三姉妹ゆかりの城です。秀吉とどのように戦ったのか、浅井家を逃れた三姉妹の話など、歴史好きには興味が尽きない資料館です。
DATA 小谷城戦国歴史資料館 所在地:滋賀県長浜市小谷郡上町139 開館時間: 9時~17時まで ※入館は16時30分まで 入館料:大人300円、小中学生150円 休館日:毎週火曜日および年末年始(12月28日~1月4日) 公式サイト:小谷城戦国歴史資料館
この2つのスポットの他にも、国友鉄砲ミュージアムや浅井歴史民俗資料館、浅井長政やお市の方も利用したと伝わる須賀谷温泉(宿泊可)など、歴史スポットがあります。詳しくは、公式サイト「滋賀・びわ湖 観光情報」を参考にされるといいでしょう。
DATA 公式サイト:滋賀・びわ湖 観光情報
信長の後継者争い最終決戦の地「賤ヶ岳」
織田信長が明智光秀に本能寺で倒され、その仇を京都山崎天王山で討った秀吉。その後は、織田家内の主導権争いに奔走し、いよいよ織田家重臣・柴田勝家との決戦を迎えます。世にいう「賤ヶ岳(しずがたけ)の戦い」です。場所は、琵琶湖の北、余呉湖周辺。
賤ヶ岳は、標高約421メートルの周囲を見下ろせる絶景ポイント。頂上へ行けば、ここが戦場において必ず確保しておきたい拠点だったことがわかるでしょう。
賤ヶ岳頂上へは、賤ヶ岳リフトの利用がおすすめです。JR木ノ本駅から徒歩で約30分(タクシーで約5分)のところにあります。頂上近くまで約6分で行けます。片道450円、往復900円。
リフトをお降り頂上までは、視界をよくするための工夫や公園化が進められ、年々明るく美しい場所へと変貌を続けています。ただし、難点が1つ。冬季はリフトの営業がお休みです(2021年の営業は4月17日〜11月27日まで)。お気をつけください。
通年利用できる手段は、歩き。リフト乗り場脇からのハイキングコースがあり、片道約50分、武将になったつもりで登ってください。冬季は、雪が積もっていることが多い地域ですので、スベりにくい靴や防寒着など準備万端お忘れなく。
賤ヶ岳の魅力は、頂上からの眺め。こちらは、琵琶湖です。
そして、余呉湖。
余呉湖は、今でこそ川から水が流れ込む湖ですが、元は湧水でできた湖。湖面が穏やかなことから「鏡湖」とも呼ばれ、日本のウユニ塩湖といわれる絶景がみられます。秀吉と勝家が戦った頃も美しかったに違いありません。この美しき湖が血に染まったといわれるのが「賤ヶ岳の戦い」です。
戦いに至る経緯を簡単に説明しましょう(諸説あります)。
時は1583(天正11)年、清洲会議(織田家の跡目をどうするかなどの重臣会議)の後、なおも勢いを増す秀吉と古参の重臣・柴田勝家らとの主導権争いが続いていました。
越前を拠点とする柴田勝家は、雪解けを待って3万の軍勢を南へと進めます。余呉湖の北、北陸街道を塞ぐように砦を築き迎え撃つ秀吉軍5万。共に、先に動いた方が負けになると、にらみ合いがひと月ほど続きます。
そこに、一旦は秀吉に降伏していた岐阜の織田信孝(信長の三男)が反秀吉の動きを見せます。秀吉は、本陣2万の軍勢で長浜から大垣へと兵を進めます。これが誘い水となり、勝家の甥で「鬼玄蕃」と称される猛将・佐久間盛政が余呉湖を迂回し、賤ヶ岳をはじめとする秀吉軍の砦に奇襲を仕掛け、戦況は一気に動き出します。
ここからは「佐久間盛政の撤退命令無視」「丹羽長秀の機転」「美濃大返し」「前田利家の苦悩」「毛受(めんじゅ)兄弟の忠義」などなど、さまざまな名場面といえる戦い・駆け引きが2日間にわたり繰り広げられます。いくつもの物語が詰まった賤ヶ岳の戦い。ドラマ化・映画化されないのが不思議なくらいです。
なかでも有名なのが「賤ヶ岳の七本槍」。秀吉子飼いの若き武将が名を上げた逸話です。この戦の性質上、秀吉に従う武将の多くは主従関係の無い同僚たち。成り上がりの秀吉に配下の人材は乏しく、今後の覇権確立のため、面倒を見てきた若き武将たち7人をプロデュースしたのが「賤ヶ岳の七本槍」です。このあたりにも秀吉の計算高さが垣間見えます。
余呉湖を見下ろせる位置に、案内板が立っています。ボランティアガイドさんがいれば、合戦の様子を語ってくれるでしょう。歴史好きにはたまらない時間を過ごせるはずです。
頂上付近の見どころを紹介しておきましょう。
歴史名所にあるとうれしくなるのが、銅像。ここにもあります。
これは、敗れた柴田勝家だとか戦場で散った中川清秀だとかネットで見かけることがありますが、違います。戦い終わり、疲れ果て兜を脱ぎ、槍にもたれかかった名も無き兵士です。
この戦いは、織田家内の後継者争いにすぎず、どちら側につけば家を守れるか、名を上げられるかといった思いのなか、かつての仲間同士が戦いました。それが戦国時代なのかもしれませんが、戦が終わった時の兵士の心情を物語っているように思えます。
DATA 賤ヶ岳(しずがたけ) リフト 所在地:滋賀県長浜市木本町大音 料金:おとな片道450円、往復900円、小学生片道250円、往復500円 営業時間:9時〜17時、11月以降は16時まで 休業日:冬季休業(2021年11月28日〜2022年3月末までを予定) 公式サイト:賤ヶ岳リフト
長浜の人たちの秀吉愛
秀吉ゆかりの長浜を巡りました。
長浜の町は、秀吉の時代に朱印地(免税地)と定められ、江戸時代にも引き継がれ大いに発展をとげます。
長浜駅から徒歩3分のところに秀吉を祀る豊国神社があります。秀吉の三回忌にあたる1600(慶長5)年に建立されました。徳川時代になり取り壊されましたが、町民によってひそかに祀られ続けました。長浜八幡宮(長浜市宮前町)では、毎年4月9日から17日の間に祭礼「長浜曳山祭」が開催されます。秀吉が始めた祭りが起源で、400年間守り続けられています。
長浜の人たちの秀吉愛。これも長浜観光の魅力ですよ。