2021年8月現在、新型コロナウィルスの影響で気軽に旅行、というムードにはならない状況です。でも天気の良い日はお出かけしたい人も多いのではないでしょうか。
鎌倉・藤沢は東京駅を基準にすると、約1時間、片道運賃1,000円弱でアクセスできます。そして、その両方の町を海沿い経由で結ぶ江ノ島電鉄に乗っての鎌倉・江の島・湘南散策は、神奈川県民の筆者が文句なしにオススメしたいルート。沿線は連日多くの人でにぎわいます。
…もっとも、新型コロナウィルスのために以前よりは少し人出は減ってしまいましたが…。
江ノ電に乗れば、いつどんな季節でも四季折々の景色を楽しませてくれるのですが、晩夏の今は海風が気持ちよさそうですよね。江ノ島電鉄(江ノ電)に乗りつつ、藤沢から鎌倉まで沿線を散歩してみましょう。
目次
江ノ電のたった10kmに詰め込まれた魅力
江ノ島電鉄線は、JR東海道本線の藤沢駅から江ノ島駅・長谷駅を経由し、JR横須賀線の鎌倉駅へ至る、全長約10kmの短い路線です。全線乗り通すと約34分。早さの点で見れば、藤沢駅から鎌倉駅へはJRを使ったほうが圧倒的に早いです。
しかし江ノ電の魅力は、この短い沿線に見どころや絶景がぎゅっと詰まっていることだと筆者は思っています。湘南の生活路線、通学路線として機能している面もありますが、海沿い・山沿いの景観を両方とも見ることができ、路面電車のような区間もあり、なおかつ沿線には江の島や、鎌倉の神社仏閣など多数の観光地・施設が点在しています。ゆえに多くの観光客に愛されている路線です。
江ノ電は、電車の長さが非常に短い!江ノ電の電車は1編成たったの2両、全長約25メートル。一般的な通勤型車両の1両の長さが約20mなので、それに比べると半分程度しかありません。その小ささもまた愛嬌があり、魅力的ですが、それでも短いことに変わりはないので混雑時はお気を付けて。日中の電車に関しては、ほぼ全て4両編成(2両編成を2本連結)で運行中です。
藤沢~江ノ島間・湘南の住宅地を行く
さて、湘南の海沿いを行く10kmの鉄路を進んでみましょう。今回は藤沢駅から鎌倉駅に向かって解説していきたいと思います。起点の藤沢駅は、ペデストリアンデッキを隔ててJR・小田急の藤沢駅南口向かいにあるODAKYU湘南GATEの2階にあります!単線のホームなので、入線した電車がすぐに折り返す仕組みとなっています。規模は小さいものの、デパートのビルから電車が発車していく光景には、どことなく私鉄らしさを感じます。
すぐに高架から地上に降り、しばらくの間は住宅地が続きます。石上駅、柳小路駅と停車。江ノ電の藤沢駅寄りは、生活感のある景観で、のんびりした空気がただよいますね。
そんな中、鵠沼駅では列車交換が行われ、上下線の電車がそれぞれホームに並びます。江ノ電は全線単線のため、いくつかの駅が行き違いを行う構造になっており、その一つが鵠沼駅となっています。藤沢行きの電車を待ち合わせた後、鎌倉行きの電車も発車し、普通の通勤電車では絶対に曲がれないであろう急カーブを曲がり終えるとそのまま境川を渡り、またカーブ。
湘南海岸公園駅に到着します。駅名になっている神奈川県立湘南海岸公園は、駅を出てすぐの大通り(片瀬西浜橋通り線)を左に曲がり、西浜橋を渡った先にある海沿いに立地していますよ。そのまま線路は少しの間境川の左側に並行、するものの、肝心の川が車窓からあまり見えないもどかしさを抱えながら走行。左にゆるく曲がって境川を別れ、江ノ島駅に到着です!
江ノ島駅を出てすぐに接するのは、有名な「すばな通り」。
おしゃれなお店が続く通りを江の島方面に歩き、片瀬江の島観光案内所前を右に曲がった弁天橋の先に見える竜宮城みたいな雰囲気の駅は、小田急江ノ島線片瀬江ノ島駅。藤沢駅からここまでなら小田急で来ることもできるほか、片瀬江ノ島駅から新宿方面への移動にも便利。
また、片瀬江ノ島駅の魅力は竜宮城を模した雰囲気だけではなく、新江ノ島水族館の協力で改札内に置かれたクラゲの水槽も見どころ!終着駅ということもあり、これ以上先のない線路の先に水槽があり、訪れる人々の心に癒しを届けています。
片瀬江ノ島駅のさらに先には江の島や、新江ノ島水族館など、おなじみの観光スポットが目白押し!またコロナ禍でなければ、片瀬東浜・西浜海岸での海水浴も楽しそうですね。残念ながら2021年8月現在、まだ新型コロナウイルスの脅威は収まっていないため、海水浴は自粛が呼びかけられています。
一方で江ノ電江ノ島駅から山側に目を向けると、大船駅まで片瀬山・鎌倉山を越えていく湘南モノレールに乗ることができます。大船駅から江ノ島周辺エリアへ直接アクセスするならモノレールも良い選択肢ですよ。
紹介が遅れましたが、今回筆者は、1日乗車券「のりおりくん」を利用して江ノ電に乗車しています。その名の通り江ノ電全線が1日乗り放題になるきっぷで、発売額は大人650円・子ども330円。提携施設での優待特典もありますよ。江ノ電は初乗りきっぷ運賃が大人200円・子ども100円のため、文字通り、3回「乗り降り」すれば、もとを取れることになります。
江ノ島~稲村ヶ崎間・路面区間を越えたら相模湾がすぐ隣!
江ノ島駅でも上下線の行き違いが行われます。藤沢行きの電車を待ち合わせ、鎌倉方面に向けて発車すると、…お待たせしました、路面区間でございます!
別の言い方では「併用軌道」とも呼び、電車が自動車と同じ道路上を走行する区間となっています。言い方を変えれば、江ノ島駅から腰越駅までの間だけ、江ノ電は路面電車になるのです。柵やフェンスなど隔てるものが何もないため、ここから見られる江ノ電は非常にダイナミック!道路上を走る風景をお楽しみください。
ちなみに路面区間の江ノ島駅寄りには、「江ノ電もなか」で知られる和菓子司「扇屋」というお店があります。ここには、1990(平成2)年まで実際に線路を走っていた、江ノ電旧600形のお顔が保存されています。お店の前に鎮座していて非常にわかりやすく、思わず目に留めてしまいそうですね。江ノ島駅で一度途中下車し、和菓子をつまみながら沿線をまわるという楽しみ方もアリかもしれません。鎌倉方面に向かって右側、パンタグラフの乗ったひさしにご注目!
DATA 和菓子司「扇屋」 所在地:神奈川県藤沢市片瀬海岸1-6-7 営業時間:9:00~17:00
腰越駅の先は、住宅の塀が線路ギリギリまで迫るところを急カーブで横切るなど、電車との距離感が非常に近いところを走りますが、そのカーブが終わるといよいよ相模湾のお出まし!!七里ヶ浜駅と稲村ヶ崎駅の中間あたりまで、鎌倉方面に向かって右手に相模湾の絶景を一望できます。
この間に通る駅の中で、鎌倉高校前駅はホーム上からも相模湾の景色を楽しめる人気スポット!「関東の駅百選」にも指定されています。
すぐとなりの鎌倉高校前踏切は、アニメ「スラムダンク」にも登場したことで一躍有名になった名スポット。鉄道ファンのみならず国内外多くの観光客が、海を背景に江ノ電が踏切を通過するシーンを撮りに訪れています。鎌倉高校前踏切以外にも、いろいろなアニメで江ノ電は登場しています。江ノ電沿線が舞台になっているアニメの本編や、オープニングを見返してみると意外な発見があるかもしれませんよ…。
しかしながら稲村ヶ崎駅の手前で線路は山と山の間に入っていくため、名残惜しいですが相模湾との並行はおしまい。上下線交換駅の稲村ヶ崎駅に到着です。
山に沿い、路地裏を進み、古都鎌倉へはあと少し(稲村ヶ崎~鎌倉間)
稲村ヶ崎駅以降も沿線が相模湾沿いを進むのは変わりませんが、電車の中からは海の風景は見えなくなります。かわりに今度は山沿いの景色に早変わり!次の極楽寺駅付近までは両側を山に挟まれた地区になっているので、これまでの風景とはさらに違う様相になり、その風景の変化が楽しいところです。
極楽寺駅は2019(平成31)年に駅舎がリニューアルされましたが、旧駅舎も保存されており、「関東の駅百選」にも指定されています。駅の稲村ヶ崎寄りに極楽寺検車区があるので、この駅で電車の切り離しをすることもあります。1面1線の単式ホームですが、江ノ電にとっては重要な駅になっています。
極楽寺駅を鎌倉方面に向けて発車するとすぐにトンネルに入ります。これは「極楽寺トンネル」という江ノ電唯一のトンネル。極楽寺川のトンネル坑門(極楽洞)はレンガ造りになっており、電気鉄道として、建設当初(1907年)の原型を今でも留めている非常に珍しい坑門として、鎌倉市景観重要建築物津等にも指定されています。
極楽洞を抜けた先は下り坂になっており、左手に御霊神社を眺めつつ、最後の交換駅、長谷駅に到着。御霊神社神社周辺は、5・6月は線路沿いにアジサイが咲く場所。大仏でおなじみの鎌倉大仏殿高徳院へは、長谷駅から北へ約7分、「大仏前」バス停と仁王門が目印です。
長谷駅を出たら最後は鎌倉市の住宅街を進み、右手にJR横須賀線が合流したら、終点の鎌倉駅に到着です。2編成の電車が入線できる構造になっていますが、基本的には3・4番線(藤沢方面に向かって左の線路、4番線は降車ホーム)に発着します。
江ノ電の鎌倉駅構内ではお土産ショップ「ことのいち鎌倉」が営業しています。江ノ電グッズはもちろん、鎌倉ハムや鳩サブレーを含む地域限定商品がバラエティ豊かに揃っているので、お土産ショッピングにぴったり。
鎌倉駅周辺は、誰もが一度は聞いたことがあるだろう一大観光地。駅東口ロータリーから鶴岡八幡宮付近まで続く小町通り、駅西口から南に通じ、江ノ電の線路付近まで続く御成通り、お好きな方から商店街を散歩してみましょう。また、鶴岡八幡宮付近まで続く長い大通り、若宮大路には、鶴岡八幡宮の二の鳥居から三の鳥居に向かって段葛(だんかずら)もまっすぐ続いています。鶴岡八幡宮自体も、初詣シーズンになれば多くの参拝客が訪れる名所になっています。
電車との距離が非常に近い江ノ電、事故に注意!
鉄道ファンのみならず、誰がどの季節に訪れても楽しめる江ノ電ですが、注意しておきたいことももちろんあります。先に述べた通り、江ノ電は電車と人間との距離が非常に近いです。線路と道路に柵が設けられていない部分もあるので、線路内への立ち入りは絶対にしないでください。沿線のいたるところには、踏切の設備が無いけど、住民が生活のために線路を渡る部分(勝手踏切)もありますが、それはあくまで地元住民の生活事情ゆえ存在しているものです。
また、江ノ島駅から腰越駅までの路面区間は特に注意しなければならない場所の一つ。柵も何もない道路上を電車が通るので、電車に近づきすぎると事故の原因となってしまいます。江ノ電の路面区間は道幅があまり広くない割に交通量が意外と多いので、路面のオレンジ色の部分に入ってしまった自動車が電車に警笛を鳴らされることもしばしば。踏切の音が鳴り、「電車接近」の文字が頭上に赤く表示されたらまもなく電車が通過するので、歩行者の場合は端に避け、自動車の場合は路面のオレンジ色の部分から離れましょう。
加えて、他の鉄道沿線でも同じですが、地元住民の迷惑になることも絶対しないこと。
先日、深夜に300形の試運転が行われた際、路面区間の横断歩道にカメラを構えていた複数人の悪質な鉄道マニアが、自転車で通行した住民に怒鳴り立てる行為があり、ニュースでも報道されました。
安全とマナーを守らないどころか、深夜に怒鳴り声を上げて住民の生活を妨害するなど言語道断。鉄道目的以外の観光においても、地元の方の迷惑にならないよう、安全とマナーを守って楽しい時間をお過ごしください。
今回は藤沢から鎌倉まで、江ノ島や相模湾沿いを経由して結ぶ江ノ島電鉄線のレポートをお送りしました。正直なところ、たった10kmの距離に無数の見どころがあるため、今回筆者が訪れただけではカバーしきれていません。逆にいえば、江ノ電沿線の楽しみ方は人それぞれ多様でもあります。電車に乗りたい、インスタ映えを狙いたい、グルメ探訪、歴史散歩、季節の花めぐり、アニメの聖地巡礼に海水浴などなど、本当に多種多様な楽しみ方のできる江ノ島電鉄線。
緊急事態宣言が解除されたら、お出かけしたいですね。